遙かなる

駒ヶ岳千畳敷カール「あの稜線まで行こう。」
「私、この景色で充分よ。」
「稜線に立つ感慨は別世界なんだ。」

遙か30年前、友と来た。
その時留守番していた女房に、
この別世界を見せたくて来た。

ここは、駒ヶ岳、千畳敷カール。

が、
一気に3000m級の高さまでバスとロープウェイで来たせいだろうか、

雲海と南アルプス心臓がイヤな鼓動をし始めた。
心臓バイパス手術以来、心臓の鼓動には敏感になってしまう。

振り返れば、雲海の上に南アルプスの山並み。少し休んで、この風景を堪能して稜線に出掛けよう。
しかし、心臓の鼓動は変わらない・・・・。

「行こう、ゆっくりゆっくり行けば大丈夫だ。」
「大丈夫なの?私はもうそこのお花畑の遊歩道で充分よ。」
「稜線に立って、南アルプスと北アルプスを望むんだ。」

歩くこと10分。心臓はますます妖しい鼓動を大きくする。
「ねぇ、止めましょう、体力不足もあるのよ。」
「稜線に立つと、それはそれは・・・・。」

遊歩道側に歩みを変える。
稜線をあきらめる。

♪見渡せばもっと高い山 いいさ俺には俺の覚悟はある

お花畑で写真を撮っていると、同年配の夫婦が、
「シャッター押しましょうか?」

「上まで行かれました?」
「遊歩道を散歩してます^^;30年前には稜線まで行ったんですけどね。」
「私は、途中で目眩がして、あきらめて降りてきました。」
「それは、悔しいですね。稜線に立つと別世界ですからね。」
「そうですか、30年遅かった・・・・。」

その夫婦は、お花畑のベンチに腰を下ろし、切り立つ山のカーテンを見上げ、あれが駒ヶ岳か宝剣岳か、あの向こうに北アルプスか、
「30年遅かった・・・・。」
「また来れば、いいじゃない。」
長い時間、優しい夫婦の時間を噛みしめているようだった。

遙かなるそのほど近い丸太のベンチでは、
もう一組の夫婦が、同じように長い時間、遙かなる山と時間を見上げている。
男は、友達とふたり、稜線に向かって山を登る二十代の若き自らの姿を山肌に描き、稜線で女房に景色を自慢する五十代の自らの姿を想像していた。

♪かっこわるいほうが かっこいいんだ ベイビィ!

「装備もみんな本格的ね。」
「登山なんだな。こっちは今も30年前もスニーカーにジーパンだ。」
「帰りに靴でも見ていく?」
「トレッキング・シューズかぁ、それも長い間、憧れだったなぁ。」

また来る。きっと来る。
30年変わらぬ姿で山はここにあったのだから、また来るまで変わらぬ姿のまま待っていてくれるに違いない。

ここは、遙かなる中央アルプス、駒ヶ岳、千畳敷カール。


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この記事へのコメント
素晴らしくキレイな写真に引き込まれて、日記を拝読しました。
心洗われる空とアルプスの美しさですね。
山のキレイな空気はこやまんさんの
心臓にとっても良さそう。

来年もぜひ奥様とご一緒に
元気に千畳敷カールを目指して下さいね。
Posted by えびこ at 2010年09月06日 13:12
あれ~!
懐かしいね!
若かりし頃は結構大胆だったね!
稜線までいってあわよくば駒ケ岳までなんてね!
ゆっくりのんびり歩きまわって景色を堪能して・・・!
もうそんな歳なんだねえ!

頑張っていきましょう!
Posted by chinachina at 2010年09月06日 18:16
>えびこさん
美しい風景でしょぉ~^^
これが稜線まで行くと、さらに別世界なんですよぉ。
トレッキングシューズを仕込んで、心臓を慣らして、きっと出直しまっす^^v

>chinaさん
30年前のあの1シーンが忘れられず、今も鮮やかに蘇るよ。雲海に浮かぶ南アルプスには、あの仙丈ヶ岳もそびえていたよ。
若い頃のシーンをゆっくりでいいからもう一度訪ね歩きたいね。
Posted by こやまん at 2010年09月07日 07:38
こんばんは。素敵な記事ですね。題名も良いです。何か心に染みます。

唄に出来そうですね。
30年前の青春の稜線を奥さんと眺めたい!手を携えて…。
色々な想いも携えて…。

出来れば歌詞を書いてみたいと思います。
素敵な記事をありがとうございます。
Posted by MCしま~MCしま~ at 2010年09月07日 21:25
>MCしま~さん
そうですか、唄になりますか^^
人生この辺まで来れば、そういうシーンのひとつやふたつ、きっとみんな胸に抱えて生きていますね。
それを唄で表現できたら、それはきっと素敵なことでしょうね。
楽しみにしています。
Posted by こやまんこやまん at 2010年09月08日 07:18
その昔二十歳の頃、山好きの両親と下から登り、それから6年後今の旦那と登り、今度は息子と3人で登ろうと思ってる。山はいい…自分の小ささをこれでもかとおしえてくれる。澄みきった空気は心も体も浄化してくれる。ゆっくり一歩ずつ…それが山。
Posted by なんちゃん at 2010年09月10日 20:57
それぞれの年代に手を携える人が居て、その時々に山で思い知ることが違ってくる。
ゆっくり一歩ずつ、か、人生の後半みたいだね。
Posted by こやまん at 2010年09月11日 11:39
こんばんは。詞が出来ました!って未完成ですが…。(笑)

記事にしたいので写真を一枚、お借りします。
またこの記事も紹介したいと思っています。

明日(17日)の晩方にUPの予定です。
宜しくお願いします。
Posted by MCしま~MCしま~ at 2010年09月16日 23:12
詞になりそうですか!
なんだかワクワクしますねぇ。

写真はどんどんお使い下さい^^v
Posted by こやまん at 2010年09月17日 07:34
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